07.視線で伝わる想い
「あ、あの・・・友雅さん。」
「・・・何かな?」
今、あたしがいるのは友雅さんの腕の中で、さっきから何度も唇を掠めるような距離で言葉を交わしている。
「ち・・・近すぎる気が、するんですけど。」
「おや、姫君はこうして囁くような語り合いはお嫌いかな?」
――― 嫌いじゃないけど、心臓に悪いです
・・・と思ってはいるけれど、それを素直に口に出す事なんて出来ない。
「・・・」
「沈黙は肯定、と思っていいんだろうね。」
くすくすと優美な笑みを浮かべながら手に持っていた扇を横に置き、空いた手があたしの頬に添えられ思わず身体を硬直させる。
「・・・随分と緊張しているようだね。」
「そ、それは・・・当たり前だと思うんですけど。」
「何故かな?」
「友雅さんにこんな風に抱きかかえられて、至近距離で話されて・・・ドキドキしないワケないじゃないですか。」
なけなしの勇気を振り絞って呟いた言葉を聞いた友雅さんが、僅かに表情を緩めた。
初めて見るような・・・戸惑いの、表情。
「・・・胸が高鳴るのは姫君だけではなく、私も同じだよ。」
「嘘ぉ!?」
「随分とはっきり言うね。」
「だって友雅さんがあたしなんかとこんな風にしててそんな風になる訳ないもん!」
力いっぱい否定すると、友雅さんの指先があたしの唇にそっと押し当てられた。
「殿は自分の魅力をご存じないようだ。先程から、君の瞳に私が映るたびに・・・溢れる想いを押さえるのにどれだけ苦労しているか分かるかい。」
「・・・」
唇に触れている友雅さんの指先が、唇の形にそってゆっくり動く。
「君の瞳はまるで恋の矢のようだよ。殿の視線ひとつで、私の心は一瞬にして奪われてしまったらしい。」
唇にのせられていた指が、そのまま頬に移り・・・優しく包み込む。
「殿・・・私の想いを知らない、とは・・・もう言わせないよ。」
徐々に近づく友雅さんの端正な顔。
決して閉じられる事のない瞳には、何だか熱い想いが込められている気がする。
瞳を合わせたまま、軽く触れ合う唇。
それがキスだって事に気づくには少しだけ時間が必要だった。
長いようで短いキスが終わると、友雅さんの甘い囁きが耳元に注がれた。
「・・・今夜は君を帰す事が出来そうにないね。」
熱い眼差しの奥に燃える火種に火をつけたのは・・・友雅さんとあたし、どちらが先だったんだろう。